レガシーシステムの移行をベンダーに見積もってもらったら、想定をはるかに超える金額と期間が返ってきて、計画がそこで止まってしまった。移行の見積もりが膨らむのは、既存のコードを人が読み解き、1行ずつ書き換え、移行前と同じ動きをするかを画面ごとに確かめる作業を、すべて人月で積み上げるからです。
AIマイグレーションは、この人手の部分をAIに置き換えて費用と期間を縮める手法です。では、どの工程が縮み、どこに人の判断が残るのか。当社が約25万行の基幹システムを移行した実績をもとに整理します。
AIマイグレーションとは
AIマイグレーションとは、生成AIをはじめとするAI技術を使って、レガシーシステムの移行(マイグレーション)を効率化する手法です。既存コードの解析から、新しい言語やフレームワークへの書き換え、移行後の動作の検証、仕様書の作成までをAIが受け持ち、これまで人手で積み上げていた工数を減らします。
AIマイグレーションという言葉は「AIを活用できるように業務やデータ基盤を移行すること」という意味で使われる場合もあります。この記事で扱うのは、システム移行の作業そのものをAIで効率化する意味のほうです。
似た言葉にモダナイゼーションがあります。モダナイゼーションは老朽化したシステムを現代的な形に刷新する取り組み全般を指し、マイグレーションはその手段のひとつです。マイグレーションは既存システムの機能を変えずに新しい言語や基盤へ移し替えることを指し、業務の見直しや機能追加まで含めて作り直す再構築とは区別されます。AIで工数を減らせるのは、主にこの移し替えの作業です。
AIマイグレーションが求められる背景
レガシーシステムを使い続けるリスクは、年々大きくなっています。経済産業省のDXレポートでは、約8割の企業がレガシーシステムを抱え、約7割が「DXの足かせになっている」と回答しています。言語やOSのサポートが切れればセキュリティ修正が届かなくなり、改修を重ねたコードを読める担当者が退職すれば、仕様を知る人が社内にいなくなります。先送りしている間にも、移行の難易度は上がっていきます。
それでも移行に踏み切れない企業が多かったのは、従来手法の見積もりが高すぎたためです。人手による書き換えとテストが前提のマイグレーションでは、工数がコードの量にほぼ比例して増えるため、中規模以上のシステムで数千万円から数億円の見積もりになることも珍しくありません。金額と工期で折り合わず、対応が先送りされてきました。
この状況が動き始めたのは、生成AIがコードを読み取り、書き換える精度が実務で使える水準に達してからです。解析と書き換えと検証の大部分をAIが受け持てば、人月の積み上げという見積もりの前提そのものが変わります。大手SIerも移行向けの専用AIモデルを開発しており、AIを組み込んだ移行サービスは各社に広がりつつあります。
AIが担う工程
AIが受け持つ工程は、下の図の4つです。このうち変換とテスト・検証は一度で終わらず、移行前と同じ動きになるまで何度も往復します。
コード解析
既存システムのソースコードをAIが読み取り、どの画面がどの処理を呼び、どのテーブルを読み書きしているかを解析します。設計書や仕様書が残っていないシステムでも、画面の動きや入力チェックの条件といった仕様をコードから起こせます。従来の移行では、設計書のないシステムほど現行調査に人手がかかり、その分が見積もりに上乗せされていました。AIが解析を受け持つと、この上乗せを抑えられます。仕様書がない場合の具体的な進め方は仕様書がないシステムはAIで移行できる?で解説しています。
コード変換
解析結果をもとに、移行先の言語やフレームワークの規約に沿ってコードを書き換えます。たとえばFuelPHPからLaravelへ移す場合、FuelPHPのORMで書かれたデータベース操作はLaravelのEloquentの書き方に、入力チェックはLaravelのバリデーションの仕組みに合わせて書き直します。構文だけを置き換えたコードは動いても移行先の書き方から外れたままになり、移行後に保守する担当者が読みにくくなるためです。
テスト・検証
マイグレーションでは「移行前とまったく同じように動くこと」の確認に、プロジェクト全体の半分近い工数がかかることもあります。AIマイグレーションでは、変換したコードをAIが実際に動かし、移行前のシステムと同じ入力を与えて、画面の表示や更新されたデータを比べます。差異があれば修正して比べ直し、差異がなくなるまでこれを繰り返します。人が画面を一つずつ操作して突き合わせていた確認作業の多くをこの繰り返しが受け持つため、テストの工数を大きく減らせます。
ドキュメント生成
移行後のコードから、仕様書や設計書をAIが作成します。移行が終わった時点で、動いているコードと一致した仕様書が手元に残るため、次に改修するときや担当者が交代するときに、コードを一から読み直さずに済みます。既存のコードから仕様書を起こす工程でAIにできること・できないことはソースコードからAIで仕様書を作る方法で解説しています。
費用・期間の削減効果
当社が手がけた基幹システムの移行では、レガシーなFuelPHPで構築された約25万行のシステムをPHP 8系とLaravel 12へ移し、従来手法の見積と比べて金額・工期を約60%削減を実現しました。当社のAIマイグレーションサービスでは、この実績に基づき、移行コスト・期間を従来手法の見積と比べて約60%削減できると試算しています。
削減幅はシステムの構成によって変わります。当社はシステムを作業単位に分けて並行で変換と検証を進めるため、共通部品への依存が整理されたシステムほど単位を細かく切れて、期間が縮みます。反対に、ひとつの処理が数千行に膨らみ、画面と業務ロジックとデータベース操作が混ざったシステムでは単位を大きく取らざるを得ず、その分だけ期間が延びます。
この事例の背景と進め方はFuelPHPからLaravelへの移行事例で紹介しています。移行費用の相場観はシステムマイグレーションの費用相場を、期間の目安とスケジュールの考え方はシステムマイグレーションの期間をあわせてご覧ください。
AIマイグレーションの限界と注意点
AIで工数が減るのは作業の部分で、判断まで任せられるわけではありません。導入を検討するときに押さえておきたい点が3つあります。
人によるレビューが前提:
AIの出力は、もっともらしく見えても業務上の正解と違うことがあります。たとえば新旧を比べて差異が出たとき、それが現行システムの不具合なのか、業務上意図した動きなのかはコードからは判断できず、業務を知る方に確認する必要があります。要件のヒアリングや設計の最終判断も人が行います。「すべてAIが自動で行う」とうたうサービスを検討する場合は、こうした判断を誰がどう行うのかを確認してください。
汎用AIツールの限界:
ChatGPTなどの汎用AIにコードを貼り付けて書き換えさせる方法は、1ファイルや1画面の書き換えなら役に立ちます。ただ、AIが一度に読める量には上限があり、数十万行のシステムでは、ある画面の処理がどの共通部品を呼び、どのテーブルを更新するかを追い切れません。書き換えた結果が正しいかを確かめるには、新旧を動かして比べる環境も別に必要です。システムを作業単位に分割し、並行して変換と検証を繰り返す当社の進め方はAIマイグレーションの進め方で解説しています。
ソースコードの社外提供:
AIマイグレーションでは、解析のためにソースコードをベンダーへ提供します。秘密保持契約の締結はもちろん、提供したコードがAIモデルの学習に利用されない契約・設定で運用されているかを、事前に確認してください。確認しておきたい契約・設定の項目と、作業環境の選択肢はソースコードを生成AIに渡して大丈夫かで整理しています。
ベンダー選びのポイント
同じ「AIマイグレーション」を掲げるサービスでも、AIが受け持つ範囲と人が確認する範囲は会社によって違います。比較するときは、次の4点を各社に尋ねてみてください。
- 移行専用のAI基盤の有無:
汎用AIツールを流用しているのか、解析から新旧比較までを回すために開発した仕組みがあるのかで、工数の圧縮幅と品質が変わります - テスト・検証の体制:
AIによる検証に加えて、差異の判断を含む人のレビューと、業務知識に基づくテストが工程に組み込まれているかを確認します - セキュリティ対応:
NDA(秘密保持契約)の締結、コードを学習に使わない運用、必要に応じてお客様のクラウド環境内での作業に対応できるかを確認します - 診断やPoCでの事前検証:
いきなり全体を発注せず、診断やPoCで変換の品質と相性を確かめてから本番移行に進めるかを確認します。小さく試してから判断できれば、発注後に想定外の難所が見つかるリスクを抑えられます
まとめ
AIマイグレーションが向いているのは、機能を変えずに言語やフレームワークを移し替える移行です。業務の見直しまで含めて作り直したい場合は、要件を固め直す工程が別に必要になり、そこは人の仕事として残ります。最初に決めるのは、自社の移行がどちらに近いかです。
移し替えが中心であれば、ベンダー選びの4点を複数の会社に尋ねて答えを比べます。そのうえで、実際のコードを使った診断で変換しにくい箇所と概算費用を確かめてから、本番の発注を判断する進め方をお勧めします。
削減幅がどの程度になるか、限界と注意点で挙げた点のうちどれが自社で問題になるかは、コードを見て初めてわかります。DEN-NOのAIマイグレーションサービスでは、NDAを締結のうえシステム概要とソースコードの一部をお預かりし、現状のリスクと移行可能性をまとめた診断レポートと概算費用を無料でご提示しています。仕様書・設計書のご準備は必須ではありませんので、お手元にない場合もそのままご相談ください。
よくある質問
Q. どのような移行に対応できますか?
PHP 5系から8系への言語バージョンアップ、FuelPHPからLaravelへのフレームワーク変更、VB6からC#へのプログラミング言語の変更、データベースの移行に対応しています。得意としているのは、機能を変えずに新しい基盤へ移すオープン系レガシーの水平移行です。メインフレーム系や業務刷新を伴う全面再構築については、内容を伺ったうえで個別にご相談に応じています。
Q. 移行中は既存システムの改修を止める必要がありますか?
長期間止める必要がないケースが多くあります。AIによる変換は繰り返し実行できるため、移行期間中に既存システムへ入った改修も、変更のあった部分を変換し直して取り込めます。当社の基幹システム移行事例では、改修凍結期間を2週間に抑えました。
Q. 費用はどのように決まりますか?
対象システムの規模を基本に、コードの複雑さや業務ロジックを読み解く必要の度合い、インフラ入れ替えの有無を加味して算出するのが一般的です。規模別の相場観はシステムマイグレーションの費用相場にまとめています。見積の内訳と根拠の読み方はマイグレーションの見積方法で解説しています。