音声で会話できるAIが身近になり、「人の代わりにAIが授業や接客をする」サービスの相談が増えています。ただ、チャットで質問に答えるAIと、30分間ひとりの生徒に向き合って授業を進めるAIとでは、作り方がまったく違います。
この記事では、外国人材向けの日本語教室Mr.CANDO日本語教室を運営する株式会社グローバルキャリアステップ様と当社が開発した、AIアバター講師による日本語授業アプリの事例を紹介します。音声対話AI・アバター映像・教材表示という別々の技術を、ひとつの授業としてつなぐために何を決め、どう作ったかを開発側の視点で書いています。
開発の背景
グローバルキャリアステップ様は、技能実習生をはじめとする外国人材に向けて、1回30分のマンツーマンのオンライン日本語授業を提供しています。2027年4月に始まる育成就労制度では、受け入れ企業に日本語の講習が義務づけられ、CEFR A2(日本語能力試験N4相当)の習得が求められます。同社は2026年7月のプレスリリースで、この需要に低コストで応える指導プログラムを発表しています。
授業の需要が増えるほど、講師の確保が難しくなります。そこで、講師の不足を補うために、AIアバターが授業を進めるアプリを検証することになりました。目指したのは、生徒が話した内容にAIが音声で応じ、講師の顔が画面に映り、授業の流れに合わせて教材が表示される、人の授業に近い体験です。

展示会用のデモ画面。教材の挿絵はデモ用に用意したものです
AIに任せる範囲
開発の最初に決めたのは、授業のどこをAIに任せ、どこを人が用意するかです。
授業の台本は人が作ります。学習目標、導入から練習、まとめまでのステップ、各ステップの目安時間、使う教材は、レッスンごとに定義しておきます。AIは、この台本の範囲で生徒との会話を進めます。生徒の発話に合わせて言い回しを変えたり、聞き取れなかった単語をもう一度言ってもらったりする部分がAIの仕事です。
教え方はレベルごとに指示を分けました。初級はN4相当の語彙でゆっくり話し、ひらがな中心で進めます。中級はN3相当の語彙で自然な速さ、上級はN2相当の語彙で敬語やビジネス表現を扱います。同じ台本でも、レベルによってAIの話し方が変わります。
この線引きをしておくと、AIが授業から脱線したり、生徒の話に応じるうちに時間を使い切ったりすることを防げます。生成AIに自由に会話させるのではなく、人が組んだ授業の中で会話させる設計です。
技術面での判断
構成は次のとおりです。
音声対話には低遅延のリアルタイムAPIを使う:
会話の自然さは返事までの間で決まります。音声をテキストにしてから文章を生成し、それを読み上げる従来の3段構成では、返事まで数秒かかります。このアプリでは音声のまま入出力できるリアルタイムの音声対話APIをブラウザから直接つなぎ、文字への変換を挟まずに応答させています。生徒が話し終えたことをサーバー側が検知し、AIがすぐに応じます。
アバターの口の動きをAIの音声に合わせる:
講師の顔はアバター生成サービスで作っています。AIが話した音声をブラウザ側で変換してアバター生成サービスへ送り、口の動きを同期させた映像を映像配信の仕組みで受け取ります。音声対話、アバター、映像配信という3つのリアルタイム接続を同時に維持し、音声と映像がずれないように調整するのが、このアプリでいちばん手間のかかった部分です。
教材の表示はAIが自分で判断する:
「ではこの絵を見てください」と言いながら教材を出すのは、人の授業なら当たり前の動作です。これを実現するために、教材を表示する・隠すという操作をAIが呼び出せる道具(Function Calling)として定義しました。AIは授業の流れに応じて、生徒の画面に教材を出し、話し終えたら閉じます。人が画面を操作する必要はありません。
教材の中身は授業前に読み込ませておく:
AIが教材について話すには、教材に何が描かれているかを知っている必要があります。授業中に画像を読み取らせると返事が遅れるため、レッスンに登録した画像やPDFは事前に画像認識モデルで分析し、その結果をデータベースに保存しておきます。授業開始時にはこの分析結果をAIへの指示に含めるので、授業中の読み取りは発生しません。
AIに時計を持たせる:
生成AIは時間の経過を自分では把握できません。何も対策をしないと導入に10分かけ、練習の時間がなくなります。そこで、経過時間、現在のステップと目安時間、表示中の教材、次のステップをまとめた授業の状態を、ブラウザから定期的にAIへ送るようにしました。AIはこの情報には返事をせず、ペース配分にだけ使います。
発話の前にAI自身に点検させる:
「必ず質問か発話の指示で終える」「時間を超過しない」といった授業の品質ルールを点検項目として指示に含め、AIが話す前に自分で確認するようにしました。生成AIの出力を安定させる方法として、出力後に別のAIで検査するやり方もありますが、リアルタイムの会話では待ち時間が増えるため、発話前の自己点検を採用しています。

生徒が答えたあとに、AI講師が講評して授業を締めくくる場面
このほか、生徒に見せる文章にふりがなを付ける処理には小型の軽いモデルを使い、休憩中はアバターの接続を切って再開時に会話の文脈を復元する、アバターの接続に失敗したときは音声だけで授業を続ける、といった作り込みを入れています。会話の履歴とAIが教材を操作した記録はすべて保存し、管理画面から授業の内容を振り返れるようにしました。
音声対話AIのアプリを開発するときに押さえておきたいこと
音声で会話するAIアプリを外部に委託する際に、先に確認しておいた方がよいことが3つあります。
返事までの間をどこまで詰めるかです。テキストのチャットなら数秒待てますが、会話では1秒の間が長く感じられます。求める体験によって、使うAPIも構成も変わります。
AIに任せる範囲を台本で決めることです。授業や接客の進行そのものをAIに考えさせると、品質が安定しません。人が流れを設計し、AIは各場面での応答を担当する分担が、現時点ではもっとも確実です。
運用コストの見え方が違うことです。音声対話やアバターのAPIは接続している時間に応じて課金されるため、テキスト生成と違って利用時間がそのまま費用になります。今回のアプリでは休憩中に接続を切る設計にしましたが、1回あたりの利用時間を先に想定しておくと、費用の見積もりが現実的になります。
まとめ
AIアバター講師の授業アプリは、音声対話AI、アバター映像、教材表示という別々の技術を、人が設計した授業の流れの中でつないだものです。低遅延の音声対話、AIによる教材の自律制御、授業の状態をAIに伝え続ける仕組みによって、人の授業に近い体験を実現しました。
この事例は、2026年4月のNexTech Week 2026【春】の当社ブースでもデモを公開しました。音声対話やアバターを使ったAIサービスの開発をお考えの方は、AI受託開発サービスのページをご覧ください。用途の整理から開発、運用まで一貫して対応しています。
よくある質問
Q. 日本語以外の言語でも同じ仕組みで作れますか?
可能です。音声対話のAPIは多言語に対応しており、台本と教え方の指示を対象言語に合わせて用意すれば、同じ構成で他言語の授業や接客に応用できます。
Q. アバターの見た目は選べますか?
可能です。用意されたアバターから選ぶほか、実在の講師をもとにしたアバターを作ることも可能です。
Q. 音声対話AIのアプリはどのくらいの期間で作れますか?
会話の部分だけなら数週間で動くものを作れます。今回のようにアバターや教材制御を組み合わせ、授業として成立させる場合は、検証を含めて数ヶ月が目安です。まず短い会話のプロトタイプで体験を確かめてから、範囲を広げる進め方をおすすめしています。